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リーアンダー・ケイニ―著「ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー」触りたくなるデザインへの拘り

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Jony Ive

Jony Ive

日経BPから、リーアンダー・ケイニ―著「ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー」の献本を受けました。

オリジナルは、2013年11月14日に発売された「Jony Ive The Genius Behind Apple’s Greatest Products」で、 翻訳:関美和、日本語序文:林信行で日本語版として2015年1月9日に出版されます。

小見出しの訳文(追加もある)や、ドラマを見るような感覚で、実際の状況が頭に浮かぶような臨場感ある文体のため、読んでいてワクワクします。


著者のLeander Kahney氏は、MacWeek、Wired.comの元記者で、現在は、2009年からCult of Mac.comを運営している方です。元記者ということで、自分の足で取材する方式は、お宝にも通じるところがあります。

この本は、Leander Kahney氏が、記者時代に、2003年のMacworld Conference & Expo/San Francisco 2003のパーティで、ジョナサン・アイブ氏と意気投合し、同じイギリス出身者ということで、親交が始まる話しから始まります。

本書の中では、ジョナサン・アイブ氏の言葉は、公式な場や公式インタビューの内容としてしか出てこず「直接ジョナサン・アイブ氏に聞いてみた」という文章は掲載されていません。あえてそうしてるのだと思いますが、本人にしか分かり得ない部分が、所々に登場します。

ジョナサン・アイブ氏のデザイン指向について、大学時代の頃の話しから、どうして形成されていったのか?が詳しく記されています。

その後、Appleに入り、ジョナサン・アイブ氏を中心にした話しというより、Steve Jobs CEOがAppleに復帰したことで、Appleにおけるデザインがどのように位置づけられるようになったのかが、まるでドラマを見ているかのようで、本書にも少し登場する西堀晋氏が言っていた「1%の人に分かってもらえれば、それで良い」という拘りがとても良く理解出来ます。

そんな拘りがあったのか!と、この本を通じて思う部分が結構登場します。

これまで雑誌やウェブなどに書かれてきた内容も含まれていますが、1996年〜2008年まで、AppleのIndustrial Design Creative LeadだったDoug Satzger氏、現在も在籍するDaniele De Iuliis氏、Duncan Kerr氏などの話しを織り交ぜながら、ジョナサン・アイブ氏の「ホワイト」と「触感」などを含めたプロダクトデザインへの拘りについては「デザインは人間が行なっているのだ」と感じさせてくれます。

Appleも、デザインを追求する上で、製造上の問題点や技術の壁にぶつかり、それらを、ハードウェアエンジニア側ではなく、デザインする側が追求することで、新しい技術革新が生まれ、出来ないはずのデザインを具現化していった様が良く理解出来ます。

「第9章 製造・素材・そのほかのこと」の中で、Tim Cook CEOについても触れています。

クック船長の功績は、2002年頃に導入した1個単位で世界中の在庫を把握出来る「グローバル・デマンド・ビジビリティ」(GDV)システムを構築し、Appleが倒産しかけた最大の理由である在庫管理を改善させた「Enterprise Resource Planning」(基幹業務情報システム)を導入したことが紹介されています。

これは「沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか」中では欠落しており、リーアンダー・ケイニ―氏は、その部分だけにフォーカスを当てています。

長年、Appleを取材し続けてきた私も、ここを語らずして何を語るのか?と思っていた部分でもあり、さすがだなと思いました。


書籍に掲載されているプロトタイプの多くは、Pre1 SoftwareのCEOだったJim Abeles氏が収集したコレクションが使われていますが、1つだけ匿名の提供者から入手したとされるiPadのプロタイプ写真が掲載されています。

そうしたプロタイプ写真が、実際、どういった時に作られたのか?というストーリーに添って掲載されているため、創造性を含まらせられるようにもなっています。


iPhone開発に関する「第10章iPhone」に、Industrial Design DesignerのDuncan Kerr氏が、Mac用のマルチタッチ液晶技術をチームに話す場面から始まり、AppleのMakes thingsImran Chaudhri氏と、User Interface DesignerBas Ording氏が、12インチMacBookディスプレイのマルチタッチ版を作り、その上で、Googleマップを使って、ピンチ操作のデモを行なったことが掲載されています。

その後、Industrial Design DesignerのBart Andre氏、Danny Coster氏(特許申請はDaniel Coster)が責任者となり、後のiPadになる「035」が作られ、そして、Industrial Design DesignerのRichard Howarth氏、Christopher Stringer氏の2つのチームで開発が進められる話しは、かなり面白いと思いました。


最近の話しに関しては「第13章サー・ジョニー」の中で、2012年10月30日にAppleがScott Forstall氏の退職を発表した事に関連し、これまで、この辞職は「マップ」問題の責任によるものとされていたが、そうではなく、ジョニー・アイブ氏が、全社的なヒューマンインターフェイス(HI)を統括することになった部分に着目し、ジョニー・アイブ氏とScott Forstall氏との確執が原因だったと記しています。

2ヶ月後、Cult of Macは「8 Tacky Design Crimes That Jonathan Ive Should Set Right In iOS 7 [Feature]」を掲載し、iOS 6までの「Skeuomorphism」から、iOS 7では、Flat designに変わり、ジョニー・アイブ氏が、何を嫌ったのか?かを記しています。


ジョニー・アイブ氏は、社内を含め、めったに表に出る事はありませんが、この時、OS開発チームを集めて、ジョニー・アイブ氏自身による「Skeuomorphismの何がダメなのかを熱く語ったプレゼンテーション」が行なわれており、その内容を元に書かれていると考えられます。

ジョニー・アイブ氏がとりわけ酷評したのが「Voice Memo」で、アプリを立ち上げて、レトロなマイクデザインが画面の大部分を占めるのに、それはなにもせず、ただ、録音ボタンを押すだけで、何の意味も無いデザインだと話した内容が、リーアンダー・ケイニ―氏の解説という形で掲載されていたりします。

こうしたハードウェアだけでなく、ソフトウェアに対するデザインの考え方にまで触れられていると、今のアプリデベロッパーの方にも参考になったんじゃないかと思います。


また、Siemens Product Lifecycle Management Softwareの「NX」や、Autodeskの「Alias」を導入し、社内にある高額なCNCマシンだけでなく、モデリング会社のFancy Models Corpにも数百万ドル以上の発注を行い、研究開発費の多くを消費していることが書かれています。

世界屈指のデザイナーと呼ばれるデザイナーは16人前後で、それに加えて、具現化するSculptorやCADデザイナーなども同数在籍し、そこに予算の制限がない夢のような環境があることが分かります。

この開発費に制限無いという環境は、ハードウェアデザイナーにとっては夢のような世界なのだと思いますし、そうした環境が無かったとしたら、ここまでデザインに拘ることは難しいとも思えます。

Appleのデザインに対する拘りは、色々と学ぶべきところもありつつ、経営的にみて、真似出来るものでもないことを知ることになると思います。




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