すごく使いにくいけど、すごい画が撮れるBlackmagic Designの小型シネカメラ「Blackmagic Pocket Cinema Camera」をチェック
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Blackmagic Designからデジタルフィルムカメラ「Blackmagic Pocket Cinema Camera」を借りてチェックしてみました。
レンズは、コシナのマイクロフォーサーズ専用レンズ「フォクトレンダー NOKTON 17.5mm F0.95」を使用しています。
(斎賀和彦教授@mono-logue)
この数年、従来のビデオカメラとは異なるムービーカメラがプロ、ハイアマチュア中心に大流行。弊害もあるものの、業界の大きな流れになっているのは間違いないところ。
そのトレンドは大別して3つ。
1. 4Kに代表される高解像度化
2. フルサイズを頂点とする大判センサー
3. 広いダイナミックレンジや10bit収録
それぞれ高画質を狙うアプローチだが、アドバンテージや弱点は個々に異なるので安易な混同は誤解の元だと思う。
そしてBlackmagic Pocket Cinema Camera(以下BMPCC)は、上記の3に特化したカメラである。1の解像度はフルハイビジョン(1920x1080)で、2のセンサーサイズはむしろ小さい。
だが、13STEPの階調表現能力を持ち、それを編集工程に劣化無く持ち込むProRes 422記録を可能としているのが、BMPCC最大の特徴である。
その画の評価は後半にして、まずはカメラとしての使い勝手を書いておくと、正直、褒めるところがないくらい使いにくい。
金属製の外装は堅牢感もあるし、グリップは見た目と異なり握りやすい。
シャッターボタンの代わりに(BMPCCは静止画撮影ができない)RECボタンを置き、ボディ上面にも三脚穴を持つという自らのコンセプトに忠実なデザインには好感を持つのだが、実際に使うと見かけのコンパクトさ、シンプルさとはほど遠いヘビーなカメラだと感じた(印象に個人差はあると思います)。
ISO感度もホワイトバランスもオートなどという軟弱(?)なものはなく自分で設定するが、それら設定が割り振られた物理ボタンは存在せず、すべてメニューに潜って操作するスタイル。
設定中に液晶プレビューで確認することもできないので、きちんとした基本理解無く、見た目で設定してきたひとにはハードルが高い。
ハードルの高さで言えば、シャッター速度ではなく表示も単位もシャッター開角度であることも同様。
8mm,16mmといった往年のフィルムムービーカメラの経験者や現状でフィルムシネカメラを扱っているひとには問題ではない(かえって分かりやすい?)が、そういうユーザーがBMPCCのマスターゲットなのだろうか、と思うと正直疑問。
バッテリーの消耗が激しいのにも閉口した。断続的に使用しても30分程度が限界で、実際に使うなら複数の予備バッテリーが必須。救いはバッテリーがニコンEN-EL20(ニコン1のもの)互換なところ。
さらに液晶の見難さは辛い。今回、BMPCCのアドバンテージである階調性の保持を最優先にテスト撮影を行ったため、ビデオモード(REC.709)でなくフィルムモードで撮影したため、液晶のビューは非常にローコントラストで俗に言う「眠い画」。
フォーカスも掴みにくく、撮影中のフラストレーションは大きい。
ただ、ここにはワタシのミスもあり、記録モードがフィルムでもディスプレイモードはビデオを設定可能だった(撮影後に気がついた)。
ただし、それを割り引いても視野角の狭さ、屋外での見えにくさは今日日のカメラの中でもっとも悪いクラスだと思う。
これらを勘案すると、BMPCCを有効に活用するなら、外部のモニターディスプレイ拡張含め、RIGを組むのが正しいのだろうと思う。
小型だからと言ってコンパクトに使う必要は無い。
ただ、リグを組んで大型、重量化するなら、センサーサイズも大きく、2.5K記録の可能な上位機種Blackmagic Cinema Cameraのほうが魅力的に思うので難しいところ。
と、使い勝手には(個人差があるものの)ネガティブな印象が大きいBMPCCだが、そのデータをMacに持ち込み、編集ソフトで後処理を掛けると印象は一変する。
ここで注意したいのは撮れた画が美しいのでは無い。
記録されたムービーファイル自体は軟調を通り越してローコントラストな眠い画だし、階調のみならず彩度も落ちたリッチさからは遠い映像である。
しかし、その映像は非常に繋がりのよい階調性とProRes 422記録によるレンダリング耐性をもったファイルで、後処理での品質劣化にとても強い。
EOSに代表される一眼ムービーの画は非常に鮮やかかつハイコントラストで美しいが、各信号は帯域のギリギリまで使い切った構造で、後処理のマージン幅が狭い。
大きめの後処理を適用すると飽和したりバンディングノイズが発生しやすいのがウイークポイント。これに対してBMPCCの画はその補正耐性が充分にあるというのが特徴だ。
作例1(上が収録映像。下が補正後)
ハイライト部分の白潰れも無く、スムーズな階調で繋がった金属ボディの質感。補正によるバンディングとも無縁で、「色を作っていく」際に大きな味方となる。
作例2(上が収録映像。下が補正後) 撮影:高田昌裕氏
従来の一眼ムービーでは白トビして表現できなかった窓外の風景を保持したまま、人物の明るさ、色味をイメージ通りに再現。
このように、補正幅の広い後処理を可能とする13STEP & ProRes 422収録のBMPCCは本格的な世界観の構築への道をひらく大きな武器となろう。
ただし、それには「全カット、色補正を行う」ことが前提となる。ばらついたカットを統一するための「色補正」ではなく、作品世界を構築する「カラーグレーディング」への転換は、単に編集時間の肥大化だけで無く、撮影時の露出設定、ライティングから大きく変化を迫られる可能性があろう。
見かけのコンパクトさや、ポケットというネーミングとは裏腹にその覚悟を要求するのが、BMPCCというシネマカメラの本質であり、良い意味でも悪い意味でもハードルの高いカメラだなあと思った由縁でもある。