WWDC2015 KeyNoteスピーチレポートその1「よりよい世界のために自分を見つめ直そう」
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Appleの「WWDC2015」がサンフランシスコで開催されました。
今回のWWDCは(今年で26年目です)昨年のWWDC2014よりさらにソフトウエアに強くフォーカスし、2014年からの一年に起きたことは、開発者のために行われて来た事を明解にメッセージとして送りました。
参加者の80%は初めて参加する人達で、去年同様、実際に開発をしているエンジニアが大半でしょう。
Appleは、本当にこの会議に参加して欲しい人達を選んでいます。
冒頭に架空のリハーサルを映像化したパロディーが流れました。「こんな事は絶対やらない」というメッセージです。
WWDC予算をかけて「金をかけてエンターテイメントにした他社の開発会議」を皮肉っています。
特に生贄の羊を殺そうとする(殺せと言われたから)場面や、エンジェル投資家がお金をまき散らして飛んでいく場面は秀逸です。
Tim Cook CEOは、いつもの業績発表を見事なまでに「全てうまくいっている」と全部省略します。メディアと利益だけが目的の投資家を徹底的にこけにします。
脚色された業績発表は、過去はとかく負け犬の遠吠えととられがちでしたが、世界で最も価値のある企業となったAppleがこれをやる事の意義はますます大きくなります。
業績と利益にしか興味無い人は財務報告を見ればいいのです。
Appleは、身銭を切ってない機関投資家やメディアは、もはや開発者会議でのメッセージを送る相手として、みなしていないとはっきり感じられます。
すぐにソフトウエアエンジニアリング担当シニアヴァイスプレジデントCraig Federighi氏に替わり、OS XとiOSのアップデート報告が行なわれ、OS Xの時期OSのコードネームを発表します。
地名から取られていますが、皮肉とAppleの哲学の一部が込められています。
マーケティングチームは、カリフォルニアスタイルでリラックして和気あいあいと相談します。しかし、コンサルタントに相談したところ「答えは自分自身の中にある」と言われます。
これはSteve Jobs氏がAppleIIの成功後、自分自身と会社をどう導いて行ったら良いか悩んだ時に禅僧に言われた言葉です。(だから岩の上に僧が座っているんですね)
これにしたがって「答えはYosemiteの中にある」ってことで、ヨセミテ国立公園の名所である「世界最大の花崗岩一枚岩」である「OS X El Capitan」に決ります。
エンジニアリングチームは、現行のOS X YosemiteをOS X El Capitanという名にふさわしい、揺るぎない信頼性を伴った頑強なOSにすべく、GPU利用の大幅強化・パフォーマンス向上・ユーザーエクスペリエンス・検索エンジンの飛躍的強化を行なった事を発表します。
他社のOSやアプリケーションで既に実施されているものも多く含まれていますが、Appleは遠慮なくユーザーにとって有用なアイディアを躊躇無く採用(盗用 ― 新しいNotesにEvernoteは怒っているでしょうねえ)します。
常に少数精鋭で実行されるので、全体に流れるコンセプトは見事なまでに統一され、ユーザーはOSとアプリケーションを使うにあたって、迷う事なく前に進んで行く事が出来ます。
iOS 9は、過去の製品を幅広くサポートした上で、新しい機能をふんだんに追加し、パワーを必要とする機能は機種を選んで実行されます。
Siriをさらに積極的に使い、ネットとのやり取りもさらに緊密になります。しかし、高速なネットに接続する環境がどこでも提供されるようになったので、オフラインでの制限はもはや気にならないでしょう。
なにせ太平洋を渡るフライトの間ずっとネットを使えるようになったのですから。
ApplePayは、カバーするカードと小売店が急激に拡大し、チケットを保持するのが目的だったPassbookは「Wallet」と名前を変え財布に変身しました。英国でのサポートも始まります。
既に交通系ICカードが広く普及している日本に近づいて行く事でしょう。ApplePayで31のアイスクリームを買って食べる事が出来ます。
しかし、事あるごとにAppleは強調します。「ユーザーのプライバシーデータをAppleは見ないし使わない」です。
膨大なユーザーのデータとトランザクション記録をもらって無料のサービスをする事はないのです。この原則に同意した小売業者しか参加できないわけです。
ApplePayをサポートしたiOSデバイスを持つユーザーに対する購買行動の垣根が一気に低くなるはずですので「サービスに自信のある業者」はこれからも参入してくるでしょう。
「News」という新しい情報閲覧アプリケーションは、良質なコンテンツを提供する出版社をサポートします。
ただ乗りnewsサイトで信頼できない編集者が付けた、いい加減なタイトルだけを眺めて満足しているユーザーに一石を投じます。
Apple News Formatという新しい記事構成フォーマットを提供し「News Publisher」登録を通じて、出版社とAppleの間で強固な関係を結んだ上で、ユーザーがプライベートに保存しているデータや操作傾向、キーワード履歴から個人的な情報を非常にスマートに分類する事が出来ます。
このアプローチで忘れてはいけないコンセプトがあります。「何が大事かはあなた自身が決める」ってことです。
iOS 9では、もう一つ画期的なソフトウエアによるUIの提案があります。それはソフトウエアキーボード「QuickType」をトラックパッドとして使えるようになるという事です。
タブレットメーカー、分離型PCを提供している企業はまた「やられた」と言うことでしょう。
開発環境ではSwiftが「Swift 2」になり、なんとオープンソースとして公開されます。
重要な機能の大半が封じ込められているCocoaが公開されないのであれば、言語であるSwiftの公開はAppleにとって大きなメリットとなるでしょう。
App Storeによるアプリケーションの全世界への普及は確固たるエコシステムを創り上げ、安定した成長をAppleと開発者にもたらしてくれます。しかし「それが目的でしょうか?」とAppleは問いただします。
世界に住む人々をより幸せにし、世界をより良い方向に向わせる事が目的なのです。
皮肉な事に、自分たちのエコシステムの産み出す利益を第1目的としなかったがゆえに、Appleは世界で最も価値のある企業に成長しました。
そしてたくさんの子供たちが、iPhoneやiPadを使う事によって、いままで知ることができなかった世界に触れることができるようになったのです。
Appleは「同じ事をApple Watchでもやろう!」と呼びかけます。
執筆:佐藤徹氏(ガラパゴス・システムズ)
写真:@taromatsumura / TAROSITE.NET